労働時間は減少しているのか?労働時間に関する統計について
2020/06/01
こんにちは。
神奈川県鎌倉市の特定社会保険労務士・北村です。
安倍首相が働き方改革関連法案から裁量労働制拡大の削除を指示することになり驚いています。
裁量労働制については、厚生労働省の調査に異常な数値や不備があったことが問題となっています。
今回のブログでは厚生労働省の労働時間に関する統計について、思うことを書きたいと思います。
目次
労働時間に関する統計を読む場合は注意が必要
下の図は厚生労働省の平成29年版過労死等防止対策白書から抜粋したものです。
この図によると平成5年に年間1,920時間だった総実労働時間は、平成28年には年間1,724時間まで減少しています。
この図を見る限り「労働時間は短くなっている」と言えそうですが、実際のところはどうなのでしょうか?
ほとんど変化のない正社員の労働時間
次に平成29年版過労死等防止対策白書に掲載されている別の図を見てみましょう。
上の図は、一般労働者(いわゆる正社員)とパートタイム労働者、それぞれの総実労働時間をグラフにしたものです。
一般労働者の平成5年の総実労働時間は年間2,045時間、平成28年は年間2,024時間であり、ほとんど変化はありません。
一方、平成5年に全体の14.4%だったパートタイム労働者は、平成28年には30.7%まで上昇しています。
これらのことから、労働者全体の総実労働時間が減少しているのは、パートタイマーが増えたからであり、一般労働者の労働時間はほとんど減少していないとことが分かります。
毎月勤労統計調査はどれくらい信頼できるのか?
厚生労働省は毎月勤労統計調査により労働時間などの統計をとっています。
平成29年版過労死等防止対策白書で使用されている労働時間に関する数値も、毎月勤労統計調査がもとになっています。
厚生労働省HP 「毎月勤労統計調査って何?」
全ての事業場が毎月勤労統計調査の対象となるわけではなく、無作為に一定数の事業場が調査の対象に選ばれます。
この調査ですが、調査票に労働者一人一人の年齢、労働時間、賃金等を書き込む必要があり、なかなか面倒です。
以前、調査の対象となった企業から「面倒だから全員同じ数字を書き込んだ」「一部の社員についてしか記入しなかった」という話を聞いたことがあります。
また「正直に労働時間を書いたら、労働基準監督署が調査に来ることはありますか?罰を受けることはありますか?」という質問を受けたこともあります。
毎月勤労統計調査が労働基準監督署などによる企業に対する調査に使われることはないとされています。
「毎月勤労統計調査」の調査票は外部の人の目に触れないよう厳重に管理され、またそれらは集計して調査結果を得るためだけに使われ、税金徴収の資料や労働局の調査などに使われることは絶対にありません。
厚生労働省HP「毎月勤労統計調査って何?」より
労働者に回答させれば違う結果が出る?
実際のところ、「記入の面倒さ」「"労働基準監督署などの調査に使われるかもしれない"という勘違い」から、毎月勤労統計調査には正確でなはい数値がかなり混じっているのと私は考えています。
毎月勤労統計調査によると平成28年の一般労働者(いわゆる正社員)の労働時間は年間2,024時間となっています。
これを月間に換算すると168時間になります。(2,024時間÷12か月、小数点以下切り捨て)
1日の所定労働時間を8時間とすると、1か月平均21日労働となります。(1か月168時間÷1日8時間)
1か月21日労働であれば、週に2日の休日は確保できますね。
1日8時間、時間外労働なし(残業なし)、週休2日制、これはなかなかいい労働条件と私は思います。
ところが、現実では度々1か月100時間を超える法定時間外労働に関する報道を目にします。
ごく一部の企業のみが法定時間外労働を行わせ、それ以外の企業の労働時間は短いので、平均した労働時間が短くなっているのでしょうか?
労働者に毎月勤労統計の調査票を記入してもらう、調査の対象を広げるなど、調査方法を変えれば全く異なる結果が出るかもしれません。
毎月勤労統計調査は正確に記入するようにしましょう
毎月勤労統計調査は国の労働政策のもととなる重要な統計です。
面倒かもしれませんが、正確に記入すべきです。
また国も毎月勤労統計調査の重要性について、もう少しアピールしたほうがいいのではないでしょうか。