労働問題

労働基準監督官の業務を民間に委託!?

2020/06/01

ブラック企業の労基法違反摘発を「民間委託」すべき理由

ダイヤモンド・オンライン 3/1配信 八代尚宏昭和女子大特命教授

労働監督、民間委託に反対=厚労省、規制改革会議の聴取で

時事通信 3/16(木) 14:55配信

政府の規制改革推進会議のタスクフォースの主査である八代尚宏昭和女子大特命教授が労働基準監督官の定期監督業務の一部を民間業者に委託するという意見を主張しています。

 

この記事の中で定期監督業務を委託する事業者として社会保険労務士が挙げられています。

社労士業界としてはありがたい話なのかもしれませんが、私は労働基準監督官の定期監督業務を民間に委託すべきではないと考えています。

社労士会がこの意見にどのような反応を示すか、興味深いものがあります。

目次

民間企業と契約を結んだまま、公平な監督業務を行えるのか、国民から公平だと評価されるのか?

社会保険労務士の多くは民間企業と契約を結んでいます。

労働基準監督官による立ち入り調査などが行われた場合は、社会保険労務士が対応します。

 

もし監督業務が社労士に業務委託された場合、一方で民間企業への立ち入り調査を行い、もう一方で企業の側に調査への対応を行うことになります。

このような状態で公平な検査が行われていると国民は納得するのでしょうか?

立ち入り調査する企業はどのように選ぶのか?

立ち入り調査する企業はどのように選ぶのでしょうか?

社労士が監督業務を厚生労働省から受託し、A社への立ち入り調査を行うとします。

 

もしかしたらA社の社長は社労士が顧問契約を結んでいるB社の社長の知り合いかもしれません。

その場合、公平な監督業務は行えるでしょうか?

 

 

立ち入り調査は完全に無関係な企業を対象としないと公平性が保てません。

しかし立ち入り調査を受ける企業と民間で自由に経済活動を行う社労士の間にいかなる関係もないと、どのように証明すればいいのでしょうか?

監督業務を受託したことを広告に使うのは問題にならないのか?

労働基準監督業務を業務委託されたことを広告に使うのはどうでしょうか?

たとえば、社労士がホームページに「相模原地区の労働基準監督業務を受託しています」と謳うのはどうでしょう?

 

監督業務を受託すれば、少なからず労働基準監督署や労働局内の内部情報に触れることになります。

顧客としては監督業務についての内部情報を聴きたくなるのは当然のように思えます。

この場合、自分の顧客に監督業務についての内部情報を教えてもいいのでしょうか?

常識で考えれば答えは「No」です。

 

内部情報を教えてほしいと顧客が迫った場合、その圧力に抵抗できるのでしょうか?

仮に守秘義務を遵守したとしても、国民は信じてくれるでしょうか?

「李下に冠を正さず」という言葉もあります。

 

また監督業務を受託した社労士と受託していない社労士間でフェアな競争は行われるのでしょうか?

顧問先企業から見れば、厚生労働省から労働基準監督業務を委託されている社労士のほうが魅力的に映るはずです。

そうなってくると「顧客によりよいサービスを提供すること」よりも「行政から業務委託を受けること」ことが重要視され、社労士の本来業務に対する能力が低下することにならないでしょうか?

労働基準監督官を増やすのが一番ではないか

労働問題に苦しむ人を救うのは待ったなしの問題なので、すぐにでも民間に業務委託すべきだという意見があります。

しかし労働基準監督業務については民間委託すべきはないと私は考えます。

 

やはり労働基準監督官を増やすのが一番良いのではないでしょうか?

監督官を増やすとしても、新規採用した監督官を教育して一人前になるまでには時間がかかるので民間に委託したほうがいいという意見もありますが、民間に委託したとしても教育や指導は必要になります。

であれば労働基準監督官を増やし労働局や労働基準監督署内で直接雇用の新規採用の職員に教育を行ったほうが効率がよく、将来的な労働基準行政の強化にも繋がります。

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